学びを支える教育

 現代の子どもたちの生活は学校でも家庭でも勉強に追われて忙しいといわれています。そして、その勉強の多くは、親や教師に強いられたり、学歴社会の熾烈な競争にまきこまれたものであるといってよいでしょう。ほんとうに、子どもたちが学習の目的をつかみ、興味を持って、学習意欲を燃やし、問題に取り組むという姿があまり見られない。「勉強しろ、勉強しろ」と言われても、学習の仕方が身についていないと、勉強のしようがない。これが多くの子どもの現実ではないでしょうか。
 受験勉強ということになると、確かにこれは入学試験に合格するための技術的な学習の仕方が身についているといってよいでしょう。しかしこの学習の仕方は、試験問題の解答に必要な効率的な記憶学習が中心になり、学習の仕方の望ましくないパターンを示しているに過ぎません。いわば、ゆがめられた学習の仕方といってよいでしょう。
 農耕社会から工業社会へ、そして情報化社会へ発展してきた社会の発展過程からして、今世紀は、どのような時代になるのでしょうか、未来学的な推測からしても、大きな変貌が予想されます。このような二一世紀に生きる人間をめざす教育には、現在よりもさらに創造的、自主的である人間が要求されると考えられます。そして、その期持にこたえるためには、自ら考え、正しく判断する力が必要となってくるでしょう。
 教育も学校教育万能の時代は過ぎ、学校以外の場で、自ら学び、時には学校教育に回帰する場合もあり得ます。したがって未来をめざす学校教育としては、学ぶ意欲を持たせ、学習の仕方の基本を身につけさせることが重要となります。このことは、教育課程の基準の改善のねらいに示されている「人間性豊かな児童生徒を育てること」と深いつながりを持っているといわねばなりません。
 すなわち、一人ひとりの児童生徒に対し、自ら考える力を養い、自律的な精神を育てること、自熱愛や人間愛を大切にする豊かな情操を養うこと、正しい勤労観を培うこと、社会連帯意識や奉仕の精神に基づく実践的社会性を培うこと、健康でたくましい身体の鍛練に努めること、家族・郷土・祖国を愛するとともに、国際社会の中で信頼と尊敬を得る日本人を育成することなどに、特に留意する必要があります。

子育てと育児

 戦後のわが国の教育においては、教育の民主化の旗じるしのもとに、人間の尊厳・自主自律をめざして、さまざまな改革が行われた。とくに教育思想と実践は、わが国の学校教育にも大きな影響を与えたのです。すなわち、彼の徹底した児童中心主義の教育思想は、つぎの四点に要約されますが、戦後の新しい教育をめざす現場教師の重要な指針となりました。

教育は生活である - 子どもを成人の候補として考えてはならないし、現在の生活を将来の生活の犠牲にしてはならない。現在の生活を充実することが、次の生活の充実を保証することになる。

教育は成長である - 教育が生活そのものである以上、成長を本質とする継続過程でなければならない。

 教育は社会的過程である - 教育が生活であり、成長であるということは、教育が社会的生命を維持するために社会的資質を育成する社会的過程でなければならないことを意味する。

教育は経験の継続的再構成である - 教育は、生命の発達そのものであり、経験は絶えず再構成され、新しい経験の基礎をつくっていく。

 このような思想は、極端な運動に走りやすく、多くの伝統主義的教育論者の抵抗を受け、進歩的な系統学習論者の厳しい批判を受けました。しかし、戦後のわが国の教育の民主化には強い影響を与え、新しい教育の理念となりました。
 戦後のわが国の教育では、つぎのような学習指導の原理が授業を構成する基本をなしていました。

目的の原理 - 学習指導は一定の目的を実現しようとする明確な意図をもって行わなければならない。

連続の原理 - 学習指導は、一定の順序に従って漸進的に行われなければならない。

個性化の原理 - 学習指導は、個人差を前提とし、児童の個性を豊かに伸張させるように行われなければならない。

社会化の原理 - 学習指導は、学習能率を高めるために集団的地位を利用して行われなければならない。

活動の原理 - 学習指導は、児童の自己活動を基礎にして、表現的、創造的経験を与えるように行われなければならない。

興味の原理 - 学習指導は、児童の興味を尊重し、児童の学習を容易に、活発に、しかも効果あらしめるように行われなければならない。

統合の原理 - 学習指導は、児童を全体としての環境に適応させ、児童に内在するあらゆる力を調和的に発達させるように行われなければならない。

評価の原理 - 学習指導は、児童に自己の学習活動を評価させることによって、学習活動を不断に改善していく意欲を高めるように行われなければならない。

 以上の八つの原理は、現代の学習指導にも適用されるものです。そして戦後の教育ではとくに社会化の原理が学習指導法や学習形態の中心になってきたといってよいでしょう。学習指導の社会化は確かに学習の主体化(能動学習あるいは主体的学習)に大きな 貢献をしました。すなわち集団学習、グループ学習、助け合い学習等は戦後の学習指導の特色となってきました。これらの集団学習は、児童・生徒の学習意欲を高め、学習を能率化するとともに、自主自律の態度、集団的地位における責任感の涵養等に役立った。
 そして、自主学習、助け合い学習、問題解決学習の三つを統合することによって、子どもの主体性が確立されていくと主張する学者もいる。しかしながら、この場合も、重要なことは、教えることばかり多く、学習の仕方を身につけさせていないということです。
 現在、グループ学習は、さかんに行われているが、形態がグループ学習であっても、個人ないし集団として学習方法の訓練をしていかないと、真の学習の主体化は実現されない。今日の学習指導は、一斉学習とグループ学習の組み合わせだけに終わっているような感がある。そして、それらが社会化の原理に立ったグループ学習として行われているかどうかという、多くの問題点が指摘される。
 その中でも、とくに問題となるのは、自主的学習や助け合い学習、問題解決学習等は確かに学習の主体化と能率化には役立つが、学習方法が思うように定着していかないということである。そこで、どうしても個々の児童・生徒に学習の仕方を身につけさせることが必要となってくる。現代社会においては、大人も子どもも、集団の中で生活することが多い。子どもでいうならば、家族集団、学校、学級集団、近隣集団等々いつも集団の中で生活している。学校における学習ということに限ってみても、学年・学級集団、あるいは小集団というように、ほとんど集団の中で、さまざまな制約を受けながら学習しているわけである。
 大人でも、そうであるように、時にはひとりで、集団を離れてやってみたいと思うことがあるに違いない。いうなれば、自己実現の欲求を誰でも持っているわけであるから、そのような欲求を充足してやる必要がある。
 これこそ、きわめて自主的な学習といってよいであろう。アメリカの教育界でもこの点に着目して、インディペンデント・スタディを提唱している学者もある。もちろん、このような自学だけが中心になると、教育の無駄がでてきて、学校教育が本来、自学の無駄をなくす使命を持っていることに反することになる。
 したがって、ここでいう自学とは、オープン・エデュケーションのようなシステムでなく、子どもたちが、自己実現の欲求に基づいて、自主的、独立的に学ぶことをいっている。このような自学をすすめていくならば、子どもたちは、ゆとりを持って学習の仕方を身につけていくであろう。人間性に即した学習というべきである。ここでいう自学とは、教師の都合によって、課題を与え、それについて自習をするというような方法を指しているのではない。子ども自らが、その興味に基づいて問題を発見し、その問題を解決していく、独立した学習をいうものである。
 現代の学校では、ほとんど、子どもたちは集団の中で学習している。時には、集団から離れて、ひとりで学習したいと思っていてもその要求がかなえられる機会は少ない。
 学校生活をゆとりと充実のあるものにするには、時には、自己実現の場としての自学の機会を与えてやることが必要であろう。このような自学によって、子どもたちは、自然に学習の仕方を身につけていくことにもなると思う。
 それでは、真の意味の自学を実施していくためには、どんな配慮が必要であろうか。
 自学のための環境整備、子どもたちの自学を進めるためには、まず環境の整備を考えていかなければならない。もちろん、つぎにあげる施設・設備の中には、現在の学校では実現不可能のものがあると思うが、教師の創意工夫のための示唆として、あえて述べることにしたい。
 学習資料センター、このセンターは、子どもたちが、ひとりで読んだり、書いたり、聴いたり、そして考えたりする場所としての環境条件が整えられている。またそれとともに作業場として、また美術室、調理室、社会科作業室としての機能もあわせ備えている。
 図書館、自学を進めるためには、学校図書館を整備充実しなくてはならない。図書館において子どもは、司書の指導を受けながら自由に、学習を深め、学習の仕方を身につけていく。
 このほか、新しい自学のために学校として考えなければならない環境としては、子どもたちが、ひとりで学習している時に生じた「つまずき」について解決の助力を得るための「小会議室」とか、学習のあいまに、気分転換をはかるための部屋、また、誰にも邪魔されないで静かに学習できる場所などもある。また、校外で学習できる場所(工場、商店、事務所等)も考えなぐてはならないであろう。

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