使途不明金

 使途不明金とはなにかについては、諸法令または通達等において、なんら明確な概念がないように思われます。したがって、それは社会通念的に解釈せざるをえないでしょう。
 一般に使途不明金とは,次のいずれかのために、その支出が会社の業務に関連があるかどうか不明な支出であるということができます。
 使途が明確でないため、記録が明確にされていないため、証憑書類が整備されていないため。
 しかしながら、使途不明金とは、あくまでも第三者が見た場合に、使途が明確ではないのであって、会社の内部者においては、当然に使途が明確になっているはずです。すなわち、会社の事務担当者サイドでかりに使途が不明であっても、会社の上層部においては、その使途は了承されているはずです。
 おそらく、そうでなければ、のような金員を、会社の組織のなかで、支出することは不可能に近いことである。この限りにおいては使途不明金と呼ぶことは,必ずしも適切ではないように思われます。
 このように考えてくると、使途不明金とは、まさに使途は明確であるが、それがある特殊な事情のために、会社のごく一部の者以外には明確にすることはできない特別の支出ということができる。したがって、税務調査においては会社の首脳部は使途を十分承知しているものとして、その使途を明示するように強く要請されることになります。

家計と暮らし

 関西地区の大型小売店は開発費の一部に4,200万円の使途不明金があると自ら申告していました。調査で社内稟議書から新規出店にからみ周辺商店街にこれを支払っていることが判明,さらに交渉記録を記したメモから支出先も解明できたため受け取った側に課税した。
 関東地区の不動産会社の事例 
 関東地区の不動産会社は雑費の名目で1,500万円を使途不明金として申告していたが、社長が個人的な知り合いに貸しつけていたことが分かり,社長の賞与と認定、社長に課税した。
 過去5事務年度における使途不胴金の状況は下表のようなものとされている。これは、国税庁の発表に基づくものであるが次による。
 これらの計数は調査課所管法人のうち実地調査を行ったものについて集計したものである。
 使途の内訳の政治献金分の集計は、昭和59事務年度が初めてである。
 したがって、従来は、その他に入れてあるものと思われる。
 下記の論議は、昭和59年3月2日の衆議院法務委員会のものである。
 贈賄事件に絡んで贈賄者側の経理操作というようなことでよく出てくるのが使途不明金だと思う。この使途不明金が最近増えている傾向にあるようだが、どうなっているか。
 57年度では資本金1億円以上の法人約1万9,000社のうち,調査した約4,300社について使途不明金の実態を調べたところ、1,011社から使途不明金428億円がは握された。
 国税庁としては真実の所得者に対する課税という、税法の本旨に照らし処理を因っているが,何分調査権限の問題もあり必ずしも全貌がは握されているわけではない。使途の判明したのは約2割の87億円でリベート、支交際費、その他政治献金などとなっている。
約2万近い法人のうちの4,000社位いというと、大体5分の1程度の調査となる。しかも428億円という数字を仮にそのまま比例的に増やすと2,000億円位の使途不胴金が予想される。
 判明した割合が2割というと、調査でも判明し得ないものは1,500〜600億円ほど存在することが予想できる。こういう状況は会社経理の正常な公示あるいは税務行政の観点から、このまま放置しておいてよいものなのか。
 調査の法的な限界などいろんなネックがある。法人が支出先を言わなければ損合性を否認し、支出法人に対して法人税を課税する措置をとっているが、法人のモラルあるいは株主の問題なども絡むため、刑法とか商法などの関連で解決すべきではないかと考える。
 法人の使途不明金は取締役の特別背任を構成する可能性もあるのではないか。
 御指摘のように、ある場合には取締役等の特別背任になる場合もあろうし、脱税につながったり贈賄資金になっている場合もあろう。
 したがって使途不明金に関連して犯罪の嫌疑がある場合は、検察当局では徹底的に解明し連切な捜査、処理を行っている。また現在、検察の重要な重点事項の一つとして脱税、汚職など社会的不公平感を助長する犯罪の厳正な処理を進めている。
 上記の論議からも明らかなように、いわゆる使途不明金は、単に法人税法のみでなく、刑法とか商法とも大きなかかわりがあることがわかる。
 使途不明金に対する課税問題は,課税の公平の見地から,きわめて重要な課題である。適正な課税なくして,課税の公平はのぞむべくもない。適正な課税は,とりもなおさず課税の公平を担保する一つの砦である。
 使途不明金の課税は、次の二つの領域において、適正に行われなければならない。
 使途不明金を支出する法人に対する適正な法人税の課税
 使途不明金を受領する個人に対する適正な所得税の課税この二つの領域における課税が、それぞれ適正に行われなければならないことに,十分に留意しなければならない。
 これらの課税について、若干の検討を試みてみよう。
 使途不明金を支出する法人への課税使途不明金を支出する法人について、その支出が否認され、法人税の課税対象となることはやむをえないことであろう。むしろ、それを容認するならば、かえって課税の公平は期せられないこととなるであろう。
 その理由としては、次の二つの点をあげることができる。
 金銭の支出の事実はあるが、その使途が明らかにされていないので、それが法人の業務に関連かおるものかどうか判断することができない。したがって金銭の額に対応する損金の額に算入することはできない。
 支出が、損金の額に算入されるとするならば,原則として、その全額が課税される交際費等の支出を容認される使途不明金の支出へ仮装する弊害が生ずることとなるであろう。
 このようなことになると交際費等の課税制度は、まったく無意味のものとなってしまうであろう。
 使途不明金の損金算入は、交際費等の全額課税制度との均衡上からいっても、容認されないところで。
 法人からの使途不明金を受領する個人については、当然に所得税が課税されなければならない。
 物や用役の対価ではなく、返還の義務がなく、金銭や物品を受領すれば、それは、当然に個人の利得として所得税の課税対象となる。受領に際しては、このような課税がもれてしまうこととなる。
 すなわち、受領者の所得税を免れることを目的として、使途不明金とするからである。
 したがって、税務当局においても、受領者を割り出し、その受領者に対して所得税を課税しなければならないこととなる。
 かりに、受領者に対しての課税がもれてしまうと、適正な課税が行われないこととなり、課税の公平がはかられないこととなる。
 すなわち、税務当局は,課税の公平の見地から受領者を割り出し、適正な課税を行い、課税の公平をはからなければならない。
 役員の個人的費用を捻出するための使途不明金は税務の取扱いにおいては認定賞与となるであろう。
 上記の検討からも明らかなように課税関係は、支出法人の課税と、受領者個人の課税との二つの領域があることとなる。
 したがって使途不明金を支出した法人が、法人税の申告書において、使途不明金相当額を自己否認して、所得金額に加算したとしても課税関係は完全に終了したことにはならない。
なんとなれば、二つの領域のうち、もう一つの課税の領域である使途不明金の受領者個人への課税が残っているからである。
 適正な課税の観点からは,自己否認していても、さらに受領者個人の所得税の課税が行われなければならない。
 したがって税務調査において受領者個人の割り出しが行われ、課税の追求が行われることとなる。
 会社において、どうして使途不明金が生ずるのであろうか。
 これは一般に実務界では、生存競争に勝つための必要悪ともいわれているようである。果たしてそうであるのであろうか。
 それについては、おおむね次の四つに分類することができる。金品を受領した相手方の課税を免れるためのもの。金品を受領した相手方の刑事罰等を免れるためのもの。役員の個人的費用を捻出するためのもの。公然と支出することが、社会通念上必ずしも適切でないもの。いずれにしても、社会通念的にみて妥当でないもののように思われる。
 金品を受領した相手方の課税を回避するために、支出した会社において、受領した相手方を明確にできない場合がある。いわゆる裏リベートなどはこれに該当するのであろう。
 このような支出は、支出の内容、相手先等が明確にはされていないので税務においては使途不明金と認定されることとなる。したがって、これらの支出は損金の額に算入されない。
 しかし、これだけで課税問題がすべて解決されたことにはならない。なんとなれば、この金品を受領した相手方にはその受領額を限度として所得税(または,相手方が法人である場合には法人税)等の課税がなされなければならないこととなる。したがって、税務当局は、当該会社に対して使途の明確化を強く要求することとなる。課税の公正という観点からすれば,当然のことといわねばならない。
 金品を受領した相手方の刑事罰等を免れるために、支出した会社において、受領した相手方を明確にできない場合がある。いわゆる「関係官庁への運動費、政界への運動費、同業者への談合費」などは,まさにこれに該当するものと思われる。
 このような支出は、支出の内容等が明確にはされていないので、税務調査においては使途不明金と認定されるので、これらの支出は損金の額に算入されないこととなる。
 特定の役員に対する個人的な負担に属する費用を、会社に負担させるために使途を明確にしない場合がある。いわゆる「役員給与(役員賞与を含む)」としての税務上の取扱いを回避するための仮装支出である。
 場合によっては,横領または着服といった事実になることもあるであろう。
 近時、使途不明金に仮装して、役員の個人的費用を支出したり、または役員の個人的な蓄財を図ったりするケースが増えつつあるようです。

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